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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)9175号 判決

原告 佐藤染色有限会社

右代表者代表取締役 佐藤清七

右訴訟代理人弁護士 濱秀和

同 金丸精孝

被告 株式会社泰工組

右代表者代表取締役 広瀬泰三

〈ほか一名〉

主文

一  被告らは原告に対し、各自金三七〇〇万円及びこれに対する昭和五三年三月二四日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  被告ら両名の本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告ら両名の請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は染色等を業とする会社であり、被告株式会社泰工組は建築等を業とする会社である。

2  原告は、昭和五二年一二月二三日、被告会社と、左記特約をしたうえ、請負代金一億八二〇〇万円とするサトウ下落合マンション新築工事の請負をする旨の予約契約(以下本件予約契約という。)を締結した。

(一) 原告は被告会社に対し、材料購入用として四五〇〇万円を仮に支払い、被告会社は、本件予約契約締結後九〇日以内にサトウ下落合マンション新築工事に着工できない場合、原告に対し本件予約契約締結後九〇日経た日に右仮払金全額を返済しなければならない。

(二) 本件予約契約締結後九〇日以内に被告会社においてサトウ下落合マンション新築工事に着工できない場合、原告もしくは被告会社は、本件予約契約を解除することができる。

(三) 本件予約契約が解除もしくは解約された場合、被告会社は原告に対し、一切の金銭請求を行なわず、また何らの義務を負担させない。

3  被告会社の代表者である被告広瀬泰三は、昭和五二年一二月二三日、原告に対し、被告会社が本件予約契約に関し原告に対し負担する債務につき、保証する旨約した。

4  原告は、昭和五二年一二月一八日、被告会社に対し、本件予約契約に基づき材料購入用として三七〇〇万円を支払った。なお、残金八〇〇万円については、原告と被告会社との話合いの結果、本契約をするまでには必要ないことが確認された。

5  ところで、右予約契約締結後九〇日をはるかに経過した昭和五三年一二月一二日に至っても、サトウ下落合マンション新築工事は、建築確認すら得られない状態で、被告会社において着工する目途もついていなかった。そのため、原告は被告会社に対し、右同日付内容証明郵便で本件予約契約を解除する旨通知し、かつ支払った三七〇〇万円の返済を請求し、右は同月一五日頃被告会社に到達した。

6  よって原告は被告会社及び被告に対し、各自本件仮払金三七〇〇万円及びこれに対する本件予約契約締結後九〇日を経過した昭和五三年三月二四日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本案前の答弁の原因

1  本件予約契約書添付の約款三〇条には、

(一) この契約について紛争が生じたときは、当事者双方または一方から、相手方の承認する第三者を選んでこれに紛争の解決を依頼するか、または契約書に定める建設工事紛争審査会のあっせんまたは調停に付する。

(二) 当事者は、その双方または一方が前項によるあっせんまたは調停により紛争を解決する見込がないと認めたときは、前項の規定にかかわらず契約書に定める建設工事紛争審査会の仲裁に付する、

旨の規定をおき、予約契約書では、東京都建設工事紛争審査会が約定されている。

2  従って、本件は、右審査会の仲裁によって解決されるべきものであるので訴えの却下を求める。

三  請求の原因に対する答弁

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実中、原告が被告会社に対し三七〇〇万円を支払ったことは認め、その余の事実は否認する。

3  同5の事実は認める。

4  同6は争う。

四  本案前の答弁の原因に対する答弁

1  本案前の答弁の原因1の事実は否認する。

被告主張の「本件予約契約書」と称する書面は、本件予約契約締結に際し、本契約の内容をできる限り特定するためなされたものであり、本件予約契約が完結し本契約が発生した場合に、本契約の内容の一部となるものであるが、本件予約契約の内容となっていない。

仮に予約契約の内容の一部であるとしても、被告主張の約款三〇条の趣旨は、仲裁契約ではなく、訴訟手続による他に建設工事紛争審査会を別個の紛争解決手段として利用しうることを定めたにすぎず、訴訟手続をもって紛争の解決をはかることを禁じたものではない。のみならず、建設工事紛争審査会は、建設工事の請負契約から発生する紛争の解決権限しか与えられていないのであるから、本件の如き紛争を解決する権限はない。

2  同2は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告と被告会社が、昭和五二年一二月二三日、サトウ下落合マンション新築工事につき、原告を注文者、被告会社を請負人とする本件予約契約を締結したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば右予約契約書には、日本建設学会等四会連合協定の工事請負契約約款が添付されており、同約款三〇条には、被告主張の内容の紛争の解決に関する条項があることが認められ、右事実からみると、右約款は、形式的には本件予約契約の内容の一部をなすものと認められる。

ところで、前記四会連合協定の約款は、請負契約につき契約書が作成される場合、通常契約書に添付して利用される場合が多く、同約款の前記紛争の解決に関する条項は、一般に建設請負工事をめぐる紛争は、その性質上、専門、技術的分野に関するものが多く、事案によっては、司法的紛争解決手段によるよりも、建設工事紛争審査会によるあっせん、調停及び仲裁によって解決する方が簡易、早急な解決が図られることからもうけられたものであることを考えると、本条項は、本契約が成立し、実際に建設工事に着工後、工事等に関し紛争が生じた場合のことを予想したものであり、少くとも本件予約契約の段階で本件の如き紛争が生じた場合には適用される余地はないものと解するのを相当とする。よって、被告の本案前の抗弁は失当である。

二  請求原因1ないし3、5の事実及び原告が被告会社に対し三七〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。そして《証拠省略》によれば、請求原因第二項記載の特約は、本件予約契約と一体をなすものと認められる。

三  右事実によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 満田忠彦)

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